top of page

文化的配慮は、まず自分を知ることから——多文化臨床に向き合うセラピストへ

  • Writer: Yasuno Yoshizawa
    Yasuno Yoshizawa
  • May 15
  • 7 min read

Updated: 6 days ago


文化的配慮は、まず自分を知ることから——多文化臨床に向き合うセラピストへ


日本でも、外国にルーツを持つクライアントと関わる機会が、少しずつ増えてきています。職場での異文化間の摩擦、国際結婚のパートナーとのすれ違い、帰国後の再適応の葛藤——こういったテーマがセラピーの場に持ち込まれることは、今後さらに増えていくでしょう。

そのような場面で、「文化的配慮」という言葉が使われることがあります。でも、文化的配慮とは何でしょうか。


多くの場合、それは「相手の文化について知識を持つこと」と理解されがちです。その国の習慣、価値観、コミュニケーションのスタイルを学ぶこと。もちろん、それは大切です。

でも、それだけでは不十分だとわたしは考えています。


文化的配慮の出発点は、相手を知ることではなく、まず自分自身を知ることです。自分がどのような文化的背景を持ち、どのような価値観や偏見を内側に抱えているのか。それを振り返ることなしに、目の前のクライアントをありのままに見ることは難しい。


この記事では、多文化臨床に向き合うセラピストに向けて、自己リフレクションという視点からその問いを一緒に考えてみたいと思います。


なぜ自己理解が先なのか


クロスカルチャー心理学の分野では、セラピストが多文化臨床に向き合う上で必要な要素として、Multicultural Competencyという概念が長く議論されてきました。知識、スキル、そして自己への気づき(Self-Awareness)の三つが柱とされています。


その中で、自己への気づきが最初に置かれていることには、理由があります。


セラピストは、自分自身の文化的背景、育ってきた環境、内側に持つ価値観や偏見から切り離されて存在することはできません。どれだけ中立的であろうとしても、自分が「当たり前」だと思っていることが、クライアントの見方に無意識に影響を与えていることがあります。


ターヴァロンとミュレイ=ガルシアが提唱したCultural Humility(文化への謙虚さ)は、この点をより深く掘り下げています。文化的配慮とは、相手の文化を「習得する」ことではなく、自分が相手をまっさらに見ることを阻んでいるものは何かを、継続的に問い続ける姿勢である、と。


つまり、文化的知識を持つことは大切ですが、それ以前に、自分のどのような部分が、目の前のクライアントを理解する妨げになっているかを知ることが、多文化臨床の出発点になります。


「相手の体験をありのままに見る」ことは、理想として掲げられることが多いですが、正直に言えば、それは完全には実現できないことかもしれません。私たちは誰しも、自分の価値観や偏見から完全に自由になることはできないからです。だからこそ、自分がどのような価値観や偏見を持っているのかを理解した上で、クライアントと向き合っていくことが大切なのです。完璧に中立であろうとすることよりも、自分の限界を知りながら、それでも相手を理解しようとし続けること。そこに、文化的配慮の本質があると思っています。


そしてこれは、外国人クライアントに限った話ではありません。異文化間の葛藤を抱える日本人クライアントと向き合う場面でも、セラピスト自身の文化的な盲点は同じように影響します。


日本の臨床現場で起きていること


日本の心理臨床の現場では、多文化対応の訓練を受けている専門家はまだ少ないのが現状です。しかし、現場では少しずつ、文化的な背景を持つテーマが持ち込まれるようになっています。


一つは、外国にルーツを持つクライアントへの対応です。在日外国人、国際結婚のパートナー、海外で育った帰国子女、TCK——こういった方々がセラピーを求める場面が増えています。


もう一つは、日本人クライアントが異文化間の葛藤を持ち込む場面です。外国人の同僚との関係に悩む人、国際結婚のパートナーとのすれ違いに苦しむ人、海外赴任から帰国した後の再適応に困難を感じている人——こういったテーマは、一見「文化の問題」に見えますが、その背景には深い心理的な葛藤が潜んでいることが多い。


どちらの場面においても、セラピストが自分自身の文化的な前提に気づいていないと、クライアントの体験を見誤るリスクがあります。


例えば、日本の文化的価値観を「当たり前」として持つセラピストが、察することを重視しない文化から来たクライアントの行動を「配慮が足りない」と感じてしまうことがあるかもしれません。あるいは、感情を表に出すことを「問題」として捉えてしまうことも。


これは、悪意からではありません。自分の文化的な前提に気づいていないから起きることです。だからこそ、自己リフレクションが必要なのです。


また、文化的なステレオタイプを持ったままクライアントと向き合うと、本来であれば個人的な体験や歴史から来ている症状や反応を、「文化の問題」として全体化して捉えてしまうリスクがあります。その結果、本来必要なアセスメントが十分に行われないまま、支援の方向性が定まってしまうことがあるかもしれません。


さらに、移民や異文化環境で生きる人が経験する心理的ストレスそのものへの理解も、臨床家にとって重要な視点です。トラウマインフォームドケアが、クライアントの体験を「症状」としてではなく「状況への反応」として理解する枠組みを提供するように、移民心理への理解も同様の視点として、もっと臨床の場に広まっていてもいいのではないかと思っています。


実践的な自己リフレクションの問い


文化的自己リフレクションは、抽象的な概念として理解するだけでは不十分です。実際の臨床場面に根ざした、具体的な問いとして自分に向けることが大切です。


まず、こんなところから始めてみてください。


異なる文化背景を持つクライアントと会っているとき、自分の中にどのような戸惑いやプレッシャーが生じているでしょうか。同じ文化圏のクライアントと向き合う時と比べて、何かが大きく違うと感じることはありますか。


もしそこに違いを感じるなら、それは重要なサインです。


その違和感やプレッシャーは、どこから来ているのでしょうか。クライアントの言動が理解しにくいと感じているのか。自分が何か失礼なことをしてしまうのではないかという不安があるのか。あるいは、相手の文化について十分な知識がないという焦りなのか。


それとも、そのクライアントに対して、無意識に特定のイメージや期待を持っていることに気づくでしょうか。


自分の内側で起きていることを丁寧に見ていくこと。それが、目の前のクライアントをありのままに見るための、最初の一歩になります。


文化的配慮とは、スタンスの在り方である


文化的配慮には、特定の正解やマニュアルがあるわけではありません。この文化圏の人にはこう接する、という決まったやり方が提示されているわけでもない。

むしろ、文化的配慮とは、目の前にいるその人を、自分との関係の中から見えてくるものとして理解しようとする姿勢のことだと思っています。


相手の文化を「知る」ことよりも、この人はどのような体験を経て今ここにいるのか、自分はその体験をどこまでありのままに受け取れているのか、を問い続けること。


それは一度習得すれば終わりになるものではなく、クライアントと向き合うたびに、繰り返し自分に問いかけていくプロセスです。


日本の心理臨床の現場が、少しずつ多様化していく中で、文化的配慮という視点が「特別なスキル」としてではなく、すべてのセラピストにとっての基本的なスタンスとして広まっていくことを願っています。


そのためにまず必要なのは、自分自身を知ること。その問いかけから、多文化臨床は始まります。



ENSO KOGEN Studioでは、帰国後の移行期や、複数の文化の間で感じる揺らぎを、個人セッションを通じて一緒に整理しています。「うまく言葉にできないけれど、なんかしんどい」——そんな段階から、ぜひ話しに来てください。

また、文化的感受性や相違についての理解やアプローチを深めたい専門家へのサポートもしています。

This article is written in Japanese. If you'd like to discuss these topics in English, feel free to reach out.

参照:

Sue, D. W., & Sue, D. (2013). Counseling the culturally diverse: Theory and practice. (6th ed). John Wiley & Sons, Inc. Hoboken, NJ.

Tervalon, M., & Murray-García, J. (1998). Cultural humility versus cultural competence: A critical distinction in defining physician training outcomes in multicultural education. Journal of Health Care for the Poor and Underserved, 9(2), 117-125.

Berry, J. W., Kim, U., Minde, T., & Mok, D. (1987). Comparative Studies of Acculturative Stress. International Migration Review, 21(3), 491-511.

Berry, J. W. (1986). The Acculturation Process and Refugee Behavior. Hemisphere Publishing Co: Washington DC.

Comments


CONTACT

まずは話してみる​

どのサービスが自分に合うか分からない場合も、お問合せください。

Feel free to reach out in English or Japanese.

ご関心のあるサービス/Service of interest

© 2026 ENSO KOGEN STUDIO. All rights reserved.

bottom of page